いつも新しい下着をつけておく というおしえが役立った日。交通事故②
わたしの母は、数年前に病を得て亡くなりました。
母は亡くなっても、母が生前言っていたことが時折心に蘇ることが多々あります。
「ひとは亡くなっても心の中に生き続ける」
というのはこういうことだったのか、と感じます。
母が度々言っていたことのひとつに
「ひとから見えなくても、下着は常に綺麗なものを身につけておきなさい」
ということがありました。
事故や病気で救急搬送されたら、服を脱ぐような事態になるかもしれない、その時、古く汚れたような下着だったら恥ずかしいし失礼だから、という理由でした。
事故の1週間ほど前、わたしは姉と一緒に買い物に行っていました。
その際、子どもの下着や靴下を選んでいたのですが、わたしも思い立って自分も新しい下着を買いました。その時「事故に遭ったら困るでしょ」と言っていたのです。
事故に備えて下着を買う意図など全くなかったのですが、奇しくもそれが役に立つことになろうとは。不思議なこともあるものです。
さて、閑話休題。
事故について、記憶と資料を頼りに、書き起こしてみようと思います。
○いつどこで事故に遭ったか
今から3ヶ月ほど前の秋、見通しの良い片側2車線の広い交差点。
○事故の状況
自転車で、青信号になって横断歩道を渡ってもうすぐ渡り切るという時に、対向車線から左折し交差点に進入してきた車に衝突されました。
警察での話によると、車のボンネットに乗り上げ跳ね飛ばされたとのこと。
わたしが跳ねられて道路に転がっていた際に目撃した方が話しているのが聞こえたのが「2,3メートルとばされた」みたいです。
○事故直後の状態
気がつくと、道路に仰向けで横たわっていました。
後頭部と左足首が受賞しているのが、感覚で分かりました。
体全体が痛いですが、特にこの部分が「絶対これ怪我してる、それもひどいやつ」と感じられました。左足首から下は、動かせませんでした。
そして酷かったのがめまい。
目を開けて、横を向いた途端にぐるぐると視界が回り、吐き気がしました。到底目を開けていられず、周囲の状況を見ることができませんでした。
自転車がどこにあるのか、自分が道路のどのあたりにいるのか。
周りに人がいて、声をかけてくれているのは聞こえました。
○救助の模様
どうやら、わたしを跳ねた人らしき人物が車から降りてきてそばに来たのが分かりました。
「大丈夫ですか?」
と声をかけられましたが
「大丈夫じゃない!」
と言いました。頭を触ると、手に血がつきました。
それまで「足が痛くてもなんとか行けるかな」と思っていたのですが、頭から血が出た状態でお客様のところに行けるわけがありません。ああ、仕事に穴を開けてしまった。
「警察と救急車呼んでください。めまいが酷くて動けないので」
と言って、わたしは会社に連絡を取らないとと思い、スマホを探し、地面に横になったまま上司と姉に電話しました。
運転していた人に、急いでたんですか?と聞いたら「いや、そういう訳では・・・」とのこと。じゃあなぜ徐行せずに交差点に侵入してきたのか?わたしの周りにも歩行者は複数人いました。
道路から移動させてくれようとした方たちがいましたが、めまいがひどいのと、動かして良いか自分でも分からない状況だったので、そのままにしてもらいました。
「何かしてほしいことはありますか?」
と聞いてくれた女性の声がしました。
「頭から血が出ていると思うのですが、見えるくらい出血してますか?」
と聞いたら
「ああ、見えますね」
と答えがあり、結構出血していることが分かりました。
「足が動かないのだけど、変な方向に曲がっていたりしていますか」
と聞いたら「それは大丈夫です」と教えていただいてほっとしました。
○怪我の状況
後頭部から出血、足首から下が動かない、ひどいめまいでした。
○救急車にて
体感として、すぐに警察が来ました。その後救急車が来るのがサイレンで分かりました。
意識を確認され、頭と首を動かしても良いか判断されてガードをつけられました。
首が痛かったけど、折れたりはしていない様でした。
目は閉じたまま、開けるとぐるぐると回る景色が目に入るので見えません。
その中でも、警察らしき人が目撃情報収集をしている様子が聞こえました。
また、わたしのスマホから家族に連絡を取ると言われたので、緊急連絡先がアイフォンに登録していると言って、姉に再度連絡してもらいました。
担架に乗せてもらい、救急車に乗りました。
車内では出発する前に搬送先の確保、体の状況の確認、バイタル測定などされ、出発まで時間がありました。
名前や年齢、住所など聞かれましたが、一貫して意識はあるので、ちゃんと答えていました。
近くの病院に搬送先が決まり、出発したのは割と時間が経っていたようです。
そのため、到着した時には姉の方が早く病院に到着して出迎えてくれた形になり、笑いました。
○病院での処置
全身、痛みや異常がないか触診、画像撮影などあったのですが、目はめまいで開けられないものの、意識ははっきりしているので、医師の問いには答えられ、どうも傷は後頭部と左足首ということが判明してきたようでした。
後頭部の傷からの出血が止まらず、縫合することになったのですが、その前に血が溜まっている部分から絞り出す処置をされました。
申し訳ないですが、これが痛いのなんの!
「痛い痛い痛い、ちょっとどうにかなりませんか?!」
って言っちゃいました、普段は痛みに強い方なので大抵のことは我慢できるんですが。
そしたら麻酔を入れてくれました。ありがたい。医学の力、素晴らしい。
ぎゅうぎゅう押してるのですが、首が痛くて、ちょ、待てよ、と思いましたがとにかくぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。そしたら血が吹き出して飛んだらしく、
「うわっ!」
「すみません、ちょっと気分が」
「座って休んで」
などと聞こえてきて、どうやら医師の1人が気分が悪くなってしまったようで、「すみませんね、わたしの出血で・・・」と申し訳ない気持ちでいたところ、頭を数針縫われて「おいおい、出産の時も縫われたことなかったのに、人生初の縫合だよ」なんて思いつつ、処置は終わったようで「頭を縫合し、出血は止まった。脳の検査では脳内出血などの所見なし、足は骨折してはいないようなので捻挫でしょう」ということを説明されました。
そして姉を呼んでくれ、処置を待っていてくれた姉と会えたました。
○その時わたしの心境
わたしは仕事中で、お客様のところに向かっているところでした。
横断歩道で見ていたスマホをいつもなら自転車の前かご荷物に入れるのですが、その時は上着のポケットに入れました。
その日は朝、肌寒くて、父が着ていたウィンドブレーカーを初めて着ていました。
一口水を飲んで行こうかな、と思いましたが、到着してからにしようと思い、青信号に替わってすぐに歩道を漕ぎ出しました。
もうすぐ渡り切るという時に、突然白いワンボックスカーが見えました。
危ない!と思った時に、夢の中のようにスローモーションになりました。
「わたしは自転車なので、バックすることはできない。でもスピードを上げて前に避けるのは時間的に無理、車がブレーキかけて止まってくれないか?」
そう考えていました。左後ろに歩行者がいるのが見え、前方にも歩道を渡ろうとスタートした人が数人いるのが分かりました。
「こんなにわたし以外に人がいるのに、なんでこの車は徐行しないで突っ込んで来るんだろう」
そう考えていました。
車のブレーキに期待したのですが、全く止まる様子はなく、車はわたしにヒットしました。
ちょうど、吸い付くように衝突したのです。
自転車の側面がガツン!!と音を立てて当たり、うわっ当っちゃった!夢じゃなかった〜と思ったら、地面に倒れていました。
「わたしを待っているお客様がいる」
「ああ、仕事に穴を開けてしまった」
「子どもはどうしよう」
「これは怪我しているから元の生活はできない」
「悔しい、悔しい、なんで」
「あの車はなんで徐行もしないで突っ込んできたの?」
「ああ、みんなに迷惑かけてしまう。申し訳ない」
充分、気をつけて来たつもりだったのですが、事故に遭ってしまった。
その悔しさと申し訳なさ、不安で涙が止まりませんでした。
わたしは人生で4回入院しましたが、一番痛くてつらい入院生活になりました。